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学会活動等

日本高血圧学会 減塩・栄養委員会

減塩活動

1. Political and social approach

政府,自治体,産業界へのはたらきかけによる食塩摂取減少

加工食品の食塩表示に関する関連省庁への働きかけ

2015年3月までの加工食品の食塩表示は,

  1. 義務化されていない
  2. 表示する場合にはナトリウム量の表示をすべきとされているが,食事指導は食塩量で行われているので,一般の方々の誤解を生じやすい
  3. 一日摂取許容量の何%か示されていないのでわかりにくい

などの問題点がありました。そこで,減塩委員会では,三浦克之委員を中心に栄養成分表示における食塩相当量(g)の記載義務化の要望書PDFを作成しました。55の関連する学会や職能団体PDFの賛同を得て,島田和幸高血圧学会理事長(下写真左より2番目),河野雄平委員長(下写真左より3番目),安東克之委員(下写真左より1番目)の3人で関係省庁(消費者庁,内閣府,厚生労働省)に2011年7月15日金曜日に要望書を提出しました。

なお,一日許容量の何%の表示に関しては健常人と高血圧患者の減塩目標値の異なるわが国ではかえって混乱を招く可能性がありますので,今回の要望には含めておりません。

消費者庁では福嶋長官(左写真右より1番目)に要望書をお渡しして,ご説明する機会を得ました。

また,記者会見の場ももうけることができました。

プレスリリース
メディアの反応

読売新聞7月21日~22日「どうなる栄養成分表示(上)すべての加工食品 義務化へ,(下)誤解招く数字のマジック」

糖尿病ネットワーク

生活習慣病予防協会

じほうMRメールニュース 2011年07月27日号 vol.2168

「食塩相当量」の表示義務化が決定!(2015年4月1日食品表示法施行)

日本高血圧学会減塩・栄養委員会では,以前から食品の栄養成分表示の義務化と「ナトリウム量」の表示を「食塩相当量」の表示とするよう,関係省庁(消費者庁,内閣府,厚生労働省)に要望書を提出していました。こうした活動が実り,2015年3月に食品表示基準が制定され,食品の栄養成分表示は2020年までには,原則として,「ナトリウム」は「食塩相当量」で表示されることになります。
私たちの取り組みが実を結び,国民レベルでの減塩推進に向けて一歩前進しました。

参考:食品表示に関する消費者庁のホームページ

基本的表示例:
食品(100gあたり,または一食分)
熱量 〇 kcal
たんぱく質 ● g
脂質 △ g
炭水化物 ▲ g
食塩相当量 ◎ g
減塩対策強化について学会から厚生労働省への働きかけ

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」においても2020年4月から男性の1日の食塩摂取量の目標値が7.5g未満,女性が6.5g未満と引き下げられ,減塩対策への関心が高まっています。しかし,欧米に比べて減塩対策はまだまだ遅れています。そこで,減塩対策の強化のために,

  1. 健康日本21における減塩目標の強化
  2. 健康日本21による食品産業・外食産業への食塩含有量低下の協力要請
  3. 健康日本21による食品産業における減塩食品の販売強化の協力要請

といった点について厚生労働省へ働きかけを行っていく予定です。

2. Population approach

集団としての高血圧患者,市民,国民へのはたらきかけによる食塩摂取減少

減塩食品の紹介(食塩含有量の少ない食品の紹介)

高血圧学会減塩・栄養委員会では高血圧患者さん並びに減塩をしようとしている方たちのお役にたてるように,一般向けのページに減塩食品のリストを作ることにしました。より有用なリストを作成すべく,2013年6月に一般の方向けのホームページに掲載しましたが,好評のようです。そこで,同年10月26日に減塩食品リストの掲載製品募集の説明会を行い,日本国内で減塩食品を販売されている企業の方々から,2014年の2月下旬に製品の掲載募集を行いました。 また,2015年には品目数で100品目を超えましたので,同年5月から掲載された減塩食品の中でも減塩化の推進に優れた成果をあげたものに対して,アワードを創設して毎年表彰をしております。詳細は一般向けのホームページの「減塩食品の紹介(食塩含有量の少ない食品の紹介)」にあります。

なお,一般向けのページの該当の個所をご覧いただき,ご意見がございましたら,高血圧学会事務局の方にお寄せいただければ幸いです。

日本高血圧学会総会における減塩弁当の紹介

日本高血圧学会では総会や臨床高血圧フォーラムのランチョンセミナーなどで減塩弁当を提供しています。その一部を一般の方向け減塩・栄養委員会ホームページで紹介しています。

減塩活動の支援と紹介

日本高血圧学会は「減塩サミット」の開催を後援・協力します。

減塩サミットでは,①健康維持のために減塩を中心とした食の重要性を啓発すること,②減塩を実行できる社会環境の整備を促進することを目的としています。減塩の重要性,その方法を,体験を通して楽しく学べるように,知的好奇心を刺激する新しい感覚のイベントを目指しています。

減塩サミットの主旨をご理解いただき,貴施設・団体で計画されている開催内容について,減塩サミット開催申請書に概要をご記載ください。日本高血圧学会減塩・栄養委員会にて,当委員会が後援する減塩サミットとしてふさわしいかを検討させていただき,日本高血圧学会ホームページで紹介するなど協力させていただきます。

3. Individual approach

高血圧患者個人,家族および医療従事者へのはたらきかけによる食塩摂取減少

減塩実践の支援ツールの提供

実地医家,コメディカル,患者自身が使用できるそれぞれのツールの開発をめざします。

減塩指導に際しては患者自身の食塩摂取量を測定することが重要です。24時間尿中食塩排泄量の測定には24時間蓄尿による実測のほか,夜間尿や起床後第2尿,随時尿からの推定が用いられていますが,もっとも簡便である随時尿を用いて24時間尿中食塩排泄量の評価を行える計算式の再検討を行い,それをもとに随時尿による食塩摂取量評価のツールを作成する計画を立てています。また,栄養士による聞き取り調査で利用できる食塩摂取量に重点を置いた質問表の作成についても検討を行うことにしています。

4. Publicity activities

減塩・栄養委員会の活動や減塩に関する広報活動

減塩実践の支援ツールの提供

医家向けと一般向けのホームページを2011年6月28日に開設しました。2012年5月には小冊子や減塩レシピの改訂版も発行しています。

エビデンス

減塩と心血管病発症リスク

食塩過剰摂取が血圧上昇の原因となり,減塩が降圧をもたらすことは動物実験やヒトにおける観察研究,介入試験で示されており,食塩と高血圧の関係に異論を唱える高血圧専門家はほとんどいません。しかし,食塩過剰摂取が心血管病発症リスクを増やすということについては,動物実験では多くの成績がありますが,ヒトでは一部矛盾した報告もあり,疑義を唱えている専門家もいます。

2011年5月4日号のJAMA誌(1)に減塩を行うと心血管病死亡率と総心血管イベントの頻度が高くなるという前向きコホート研究が報告されました。この研究はLancet誌(2)などで主に方法論上の限界が指摘され,批判的に受け止められています。過去にも同様の報告が認められますが(3),このような否定的な研究はごく少数です。実際,Strazzulloらの前向きコホート研究のメタ解析では食塩過剰摂取は脳卒中や心血管病のリスクを増やすことが指摘されています(4)。観察研究では食塩摂取量の測定方法,食塩摂取量や心血管病発症・死亡に関連するキーファクターを拾いきれていないなどの方法論上の限界から一見矛盾するデータが出ることもありえます。しかし,多くの観察研究では,食塩過剰摂取が心血管リスクであることが示されていますので,観察研究の結果からは減塩は有益である可能性が高いだろうというのが専門家の一般的な見解であると思います。しかし,観察研究は因果関係を導き出すには限界があります。

一方,2011年7月6日にTaylorらが6ヶ月以上の経過観察が行われている減塩の介入試験(無作為化コントロール試験:RCT)7件を集めたレビューを発表し,減塩の心血管病や死亡に対する抑制効果にはエビデンスがないと発表しました(5, 6)。取り上げられた成績のうち心不全患者を対象にした1件においては,減塩はよくないという成績でしたが(これに関しては後で述べます),それ以外の高血圧患者や正常血圧者を対象にしたもののメタ解析では減塩は心血管リスクや総死亡の軽度の改善効果はあるものの有意差がないというものでした。これらの成績はヒトで減塩の効果を見る方法論上の難しさを示唆するものですが,減塩の有効性を否定するものではありません。このようにRCTで減塩の効果を示せなかった原因として,食塩摂取量のみを変えて他の食事性の因子をそのままにすることが難しいことや,経過観察期間が短すぎ心血管病の発症数が少ないためにデータが統計学的にパワー不足であることなどがあげられます。He とMacGregorはLancet(7)にTaylorらのメタ解析に対する反論を発表しています。心不全患者の論文をのぞいて正常血圧者と高血圧患者を一緒にメタ解析すると心血管リスクは2.0~2.3g/日の減塩で20%の有意の低下を示すと報告しています(Taylorらの解析は正常血圧者と高血圧患者を分けて解析していました)。また,Taylorらのメタ解析で取り上げられているTOHP ⅠおよびTOHPⅡは前者が11.5年,後者が8年の経過観察の成績を引用し,心血管病罹患率の解析ではこの二つを合わせて正常血圧者の解析として有意差がなかったという成績になっています。しかし,2007年にBMJ (8)に発表されたTOHP ⅠおよびTOHPⅡの経過観察の報告ではそれよりも長い10~15年の追跡を行い(もちろんこの論文はRCTとしては不完全ではあるのですが),総死亡では有意差が得られなかったものの,減塩群では心血管病の有意な減少を認めています。2011年のLancetのHe とMacGregorの反論(7)も2007年のBMJのTOHPⅠ/TOHP Ⅱの経過観察報告(8)も統計学的にパワーのある研究を行えば少なくとも減塩による心血管リスクの低下を示すことができることを示唆しており,もっと長期に経過を見る,あるいは大規模な研究を行えば総死亡でも有意差が出てくる可能性を期待させるものです。以上より,介入試験における減塩の心血管病発症抑制に関しては食塩摂取量のみのコントロールが難しいにもかかわらず科学的エビデンスあると考えていいと思います。総死亡に関しては効果がないにしても,同じ寿命でも心血管病で苦しみつつ生きるのと健康に生きるのは大きなQOLの違いがあります。食塩摂取量の非常に多い現代人において,手間のかかる長期間の試験で総死亡に対する効果が確認できるまで待って,減塩を推進するのでは遅すぎます。確かに食塩(ナトリウム)はわれわれの身体活動に必要ですが,現代人のように多くとるのは明らかに有害であると考えられます。

それでは,減塩はすべての患者で有効なのでしょうか。Taylorらのレビュー (5, 6)では,心不全患者において異なった2つの食塩摂取量の影響を180日の追跡期間を設けて見た研究(9)が引用されています。実際の食塩摂取量は約6g/日(対照群)と約4.5g/日(減塩群)です。この研究では減塩群の方が心不全による入院が有意に多かったことが示されています。しかし,対象患者がフロセミドを250~500mg/日服用し,飲水制限1000mlを行った状態で食塩摂取量の差を見ているのが大きな問題です。期間も短かく,ベースの食塩摂取量は約6g/日で減塩との差は大きくはありませんが,減塩にしたことによる急激な循環血漿量の低下の影響もあるかもしれません。あまり注目されていないかもしれませんが,急激な循環血漿量の変化に弱い集団では減塩の速度については考慮する必要があります。さらに,この研究ではベースの食塩摂取量が約6g/日とそれほど多くない点も注目すべきで,この成績からわが国で実際に摂られているような10g/日を超える食塩が心不全患者で妥当であるとは言えないことはいうまでもありません。

それでは,最終的にどこまで食塩摂取量を下げることが可能なのでしょうか。欧米のガイドラインでは3.8g/日を高血圧などの疾患を伴う患者さんの目標値としてあげております(10) 。石器時代のヒトの食塩摂取量を推算した報告では1.5g/日であったということで (11),3.8g/日はまだ少し余裕があるのかもしれません。腎臓のナトリウム排泄能の低下をきたすと,食塩貯留を来たしやすいことはよく知られていますが,厳しい減塩を行う際には腎のナトリウム保持能についても配慮すべきです。高齢者など腎機能が低下したものでは,腎臓のナトリウム排泄能低下によって食塩感受性高血圧になりやすいのみでなく,腎のナトリウム保持能も低下し,減塩の際にナトリウム喪失も来たしやすいといわれています。1型糖尿病患者で食塩摂取量と総死亡の関係を見た報告(12)では食塩過剰摂取でも厳しい減塩でも総死亡を増加させることが示されており,約3~6g/日くらいの摂取量が最も総死亡が低いという成績がありますが,糖尿病患者では腎障害を伴うことが多いので,厳しい減塩で有害事象が出たのかもしれません。また,この報告では末期腎不全の発症も厳しい減塩で増加しました。動物実験でも極端な減塩の弊害を指摘した報告がいくつかあります。たとえば,動脈硬化モデル動物であるapolipoprotein E欠損マウスで極端な減塩は動脈硬化の進展を促進するという報告があります(13)。さらに,妊娠中の非常に極端な減塩は胎児の腎糸球体数を減らし,将来的な高血圧リスクを増加させる可能性がラットで指摘されています(14)。また,極端な減塩が幼若なラットの発育を遅れさせることはよく知られている事実です。これらのことから,妊婦,幼児,高齢者,臓器障害のあるものでは急激な厳しい減塩は有害である可能性があり,厳しい減塩は慎重に行うべきです。しかし,これらの報告はいずれも非常に厳しい減塩の場合で,このような特殊な病態でも6g/日前後の食塩摂取量が有害であることを示している訳ではありません。なお,DASH-sodium (15)では3g/日前後の減塩では正常血圧者と高血圧患者を含めたグループ(120~159/80~95mmHg)では有害事象なく降圧を来たすことが報告されており,このあたりまでは問題がなさそうです。

以上より,日本高血圧学会がかかげる減塩6g/日未満は高血圧の治療や予防に有用であることが確立されているのみでなく,心血管病の予防・治療にも有用性が期待されるものと考えられます。

<文献>

  1. Stolarz-Skrzypek K, et al.; European Project on Genes in Hypertension (EPOGH) Investigators. Fatal and nonfatal outcomes, incidence of hypertension, and blood pressure changes in relation to urinary sodium excretion. JAMA. 2011; 305:1777-85.
  2. Salt and cardiovascular disease mortality. Lancet 2011;377:1626.
  3. Cohen HW, et al. Sodium intake and mortality in the NHANES II follow-up study. Am J Med. 2006;119:275.e7-14.
  4. Strazzullo P, et al. Salt intake, stroke, and cardiovascular disease: meta-analysis of prospective studies. BMJ. 2009; 339:b4567.
  5. Taylor RS, et al. Reduced dietary salt for the prevention of cardiovascular disease. Cochrane Database of Systematic Reviews 2011; 7:CD009217.
  6. Taylor RS, et al. Reduced dietary salt for the prevention of cardiovascular disease: a meta-analysis of randomized controlled trials (Cochrane Review). Am J Hypertension 2011; 8:843-53.
  7. He F, MacGregor GA. Salt reduction lowers cardiovascular risk: meta-analysis of outcome trials. Lancet 2011;378:380-2.
  8. Cook NR, et al. Long term effects of dietary sodium reduction on cardiovascular disease outcomes: observational follow-up of the trials of hypertension prevention (TOHP). 2007;334:885-8
  9. Paterna S, et al. Normal-sodium diet compared with low-sodium diet in compensated congestive heart failure: is sodium an old enemy or a new friend? Clin Sci (Lond). 2008; 114:221-30.
  10. ASN statement in support of US dietary guidelines for Americans 2010.
    http://www.newswise.com/articles/asn-statement-in-support-of-us-dietary-guidelines-for-americans-2010
  11. Eaton SB, et al. An evolutionary perspective enhances understanding of human nutritional requirements. J Nutr 1996;126:1732-40.
  12. Thomas MC, et al.; FinnDiane Study Group. The association between dietary sodium intake, ESRD, and all-cause mortality in patients with type 1 diabetes. Diabetes Care. 2011;34:861-6
  13. Catanozi S, et al. Dietary sodium chloride restriction enhances aortic wall lipid storage and raises plasma lipid concentration in LDL receptor knockout mice. J Lipid Res. 2003;44:727-32.
  14. Koleganova N, et al. Both high and low maternal salt intake in pregnancy alters kidney development in the offspring. Am J Physiol Renal Physiol. 2011; 301:F344-54.
  15. Sacks FM, et al.; DASH-Sodium Collaborative Research Group. Effects on blood pressure of reduced dietary sodium and the Dietary Approaches to Stop Hypertension (DASH) diet. DASH-Sodium Collaborative Research Group. N Engl J Med. 2001;344:3-10.

(安東克之,河原崎宏雄)

問い合わせ先
  • 日本高血圧学会 事務局
    減塩・栄養委員会担当
  • E-mailgenenjpnsh.jp
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