日本高血圧学会 顕彰委員会
栄誉賞
樂木 宏実 先生(大阪ろうさい病院)
- この度、2024年10月、第46回日本高血圧学会総会におきまして、本学会の栄誉賞を拝受いたしました。本学会の最高賞であり、ご推薦、ご選考いただいた皆様に感謝申し上げますとともに、本賞の受賞に至る学会活動、高血圧学に関する研究を支えてくださいましたすべての皆様方に心から御礼申し上げます。
私の高血圧との出会いは、大阪大学での学生時代に農山村医療研究会というクラブに所属して、毎年夏休みの2週間程度、高知県香美郡物部村久保地区で、廃校になった小学校に寝泊まりしながらフィールド活動をしていたことに始まります。農村医療に尽力された若月俊一先生の書物も輪読し、高血圧対策による疾病予防がフィールド活動の根幹でした。恩師の荻原俊男先生も私が所属したクラブの前身である東南アジア研究会に所属されておられたことを助教授の頃に知りました。「運命の中に偶然はない」という言葉を部屋に掲げているのですが、私の高血圧との関りは、学生時代、入局、その後の研究テーマの選択、研究の変遷とまさにこの言葉のつながりの連続です。
学会の発展への貢献が栄誉賞の一つの条件ですが、私が最も力を注いだのは、2006年の福岡での国際高血圧学会、ならびに2009年の高血圧治療ガイドライン作成委員会で、荻原俊男先生のもと事務局長を担当したことだと思います。作業の大変さはさておき、特にガイドライン作成委員会では、ご自身の研究や、独自の考え方に基づいて一家言をお持ちの先生方がガイドラインという一つの目標に向かって議論されるのを間近で見ることができました。この経験は、自分の学会における立ち位置について公平性・公明性・新規性・現実性、実行性のバランスを形作ることに大いに役立ちました。また、学会でやらなければならないと思うことは、同世代、先輩、後輩の方々との語らいの中で自然発生し、共通認識を持って進めることができたように思います。学会の中で多くの方々に恵まれてご指導・ご支援を頂けたお陰と感謝しています。特に、2020年から2年間の理事長時代には会員のみならず学会事務局の方々を含めて本当に多くの皆様に支えていただきました。高血圧学会の人間関係の良さは今も昔も変わらないと思います。この人間性豊かな知の集団において益々学会が発展することを期待しています。
栄誉賞のもう一つの条件である高血圧学の発展については、私個人の力より、所属していました大阪大学の皆様の力が全てです。特に、恩師である荻原俊男先生、檜垣實男先生、留学中の恩師であるVictor J Dzau先生、独自の研究を積み重ねる時に一緒に活動してくれた勝谷友宏先生、大石充先生、神出計先生、教室のそれまでのレニン-アンジオテンシン系研究を全く新しい方向に牽引してくれた山本浩一先生はじめ教室の関係の皆様方に改めて深謝いたします。
受賞講演は、「分子高血圧学と情報高血圧学」というタイトルにしました。自分のこれまで歩んできた道と自分の興味、将来の高血圧学会の発展を期待しての研究分野名です。他にも多くの研究分野がありますが、遺伝情報だけでなく血圧値を連続記録できる時代の情報科学による新たな高血圧学は、学会の新たな発展とその社会的役割の拡大につながるものと確信しています。高血圧学会ならびに高血圧学への自分の関与を、受賞講演の場でこのような言葉にして感謝の念と発展への期待を持ってお話しできる幸運に感謝いたします。
学会賞
三浦 伸一郎 先生(福岡大学)
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この度、第46回日本高血圧学会会長・日本高血圧学会理事長の野出孝一先生をはじめ多くの先生方のご推挙により、日本高血圧学会学会賞を賜り、誠にありがとうございました。
私は、福岡大学医学部を卒業後、同大学内科学第二講座初代教授の荒川規矩男先生に師事いたしました。大学院時代には、「高血圧運動療法における降圧メカニズム」の臨床研究を実施し、運動生理を同大学スポーツ科学部の田中宏暁教授(故)に学びました。そして、「運動早期の腎カリクレイン系の活性化が降圧のトリガーとなる」ことを報告し、医学博士を取得しました。その後の米国留学(クリーブランドクリニック)の5年間では、アンジオテンシンII(Ang II)受容体の構造と機能解析についての基礎研究を行い、Ang II 1型(AT1)受容体の活性化機構、AT1受容体ブロッカー(ARB)にはクラスエフェクトとともにドラッグエフェクトが存在すること、AT2受容体のリガンド非依存の持続活性の存在などを報告いたしました。帰国後は、基礎研究を継続すると共にARBのわずかな化学構造の違いが薬効の差をもたらしている可能性を提唱し、臨床研究において薬効の差を確認し報告してきました。現在、どの医療分野でも研究者が減少している現象があります。今後も高血圧分野、さらに、心血管病の分野において、基礎・臨床研究を遂行できる若い医師の育成に努めて参ります。
また、高血圧専門医・指導医、理事の学会活動として、生涯教育・チーム医療委員会の委員長を務めさせていただいております。2024年5月に開催された「高血圧フォーラム2024」では、大会長を務め、テーマ「高血圧撲滅に向けて~基礎研究からAI戦略や双方向性通信機器の役割、実臨床・多職種連携まで」という持続性のあるトピックスを取り上げ、専門医・非専門医を問わず、開業医や多職種医療者など750名以上も参加していただいたことは大きな喜びでした。
高血圧は、依然として、未認識の高血圧患者や降圧療法中でもコントロールが不良な患者も多く存在しているのが現実です。今後も学会の発展や高血圧学の進歩に貢献して参りますので、ご指導・ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。この場をお借りして、これまでご指導していただいた多くの諸先輩の先生方、同僚、後輩に深謝いたします。
学術賞
田中 敦史 先生(佐賀大学)
- この度の第46回日本高血圧学会総会におきまして、私たち若手高血圧研究者にとり大変栄誉ある本学会の学術賞を賜りました。選考に当たられた顕彰委員会の向山政志委員長をはじめとされる先生方および学会の諸先生方、ならびに関係の多くの皆様に心から御礼を申し上げます。
私は2005年に佐賀医科大学を卒業し、佐賀大学医学部附属病院での初期研修を経て、天神会新古賀病院・古賀病院21にて循環器内科医としての臨床経験を積みながら、心臓MRIを用いた非侵襲的な冠動脈プラークの性状評価に関する画像研究に従事させていただき、研究マインドの礎を学びました。2010年からは慶應義塾大学の大学院へ国内留学の機会を頂戴し、ヒトiPS細胞を用いた最先端の基礎研究に触れさせていただき、研究の視野を大きく広げることの大切さを学びました。
その後、2015年に母校である佐賀大学循環器内科にて野出孝一先生が主宰される多くの薬剤介入型の臨床試験チームにお世話になりました。特にその当時、SGLT2阻害薬の大規模臨床研究の結果が大きな注目を集める中、同薬がもつ心不全・動脈硬化・血管機能・血圧など非常に多岐にわたる臨床指標への影響を評価し、さらにはその臨床的な作用機序を解明するための複数の臨床試験を野出先生が立ち上げようとされていました。私がそうした場に立ち会わせていただくことができたのは、本当に幸運な出会いであったと同時に、臨床試験という大きな壁への挑戦の日々の連続でありました。しかし、その挑戦での学びがまた次の新たな挑戦へとつながり、さらに多くの共同研究者らとのつながりが生まれ、そうした繰り返しの中から循環器領域における臨床試験の進展を目指し、私たちはチームで一丸となり取り組んでまいりました。本受賞を糧に、今後、臨床試験の質に磨きをかけると同時に、新たな手法・領域にも挑戦しながら、より質の高い本邦発のエビデンス創出を通じた社会貢献の実現へ向け、全力で努めてまいりたいと思います。
最後になりましたが、すべての臨床試験との出会いを導いてくださった野出孝一先生、先生が大会長をされる本総会において、事務局長として参加させていただいただけでなく、こうして学術賞の栄誉にあずかることができましたことを本当に誇りに思います。ありがとうございました。
日本高血圧学会 歴代受賞者について
日本高血圧学会 栄誉賞
日本高血圧学会 学会賞
日本高血圧学会 学術賞
学術賞の公募について規定
日本高血圧学会は、将来の高血圧学の進歩に寄与する顕著な研究を発表し本会の発展に大いに期待される会員を選考し、日本高血圧学会 学術賞を授与いたします。