日本高血圧学会 顕彰委員会
栄誉賞
大屋 祐輔 先生(沖縄県北部医療財団)

- このたびは、高血圧学会栄誉賞の受賞を受けましたこと、心より感謝申し上げるとともに、たいへん誇らしく思っています。ただこの受賞は私にとっての栄誉でありますが、これまで私と一緒に学び・働いてくれた多くの仲間に対してのものだと考えています。
私と高血圧学会との関係、そして、どのように学会に関わってきたかを述べたいと思います。
私が、高血圧学会に入会した1980年ごろは、研究の成果から新しい降圧薬がつぎからつぎへ実用化され、さらにそれらを用いた臨床研究が発表され、高血圧学会の全盛時期だったと記憶しています。私が、所属した九州大学第二内科、琉球大学第三内科は、教授が高血圧を専門とし、周りにも高血圧を研究する仲間が多く、私も何一つ疑問を持たず、高血圧の研究や臨床に打ち込んでいました。この時期に行った研究を世界に発信できたことは、喜びであり、また、誇りでもあります。しかし、専門医制度や臓器別医療の重視とともに、高血圧を専門とするものたちが何をするのかが明確ではないという疑問も生じてきました。ちょうどその時期、学会として専門医制度を作ることになり、担当幹事として、日本専門医機構の方針を見ながら、専門医制度の準備をいたしました。残念ながら現在まで専門医機構の認定は得られていませんが、質の高い専門医制度はできました。その過程で、高血圧の診療の基本や専門性について、また、社会における学会の役割などを学ぶことできまました。次に、コメディカル委員会の委員長として、医療スタッフの専門性にかかわる認定制度に循環器予防学会、動脈硬化学会ともに取り組みました。高血圧療養指導士制度(現在の循環器病予防療養士制度)です。複数の学会の利害を調整しつつ、医療スタッフの人たちのニーズに答えるような制度を作ることができました。この二つの制度は学会員数の増加や学会のアクティビティに大きく貢献したものと考えています。
総務委員長のときには、学会の組織力の向上に関して新しい委員会や部会の創設を進めました。具体的には、禁煙ワーキンググループ/禁煙委員会と男女参画ワーキング/男女共同参画委員会(後のダイバーシティ委員会)です。また、実地医家部会については学会内の正式部会とするように取り組みました。これらの3つは高血圧学会内でもとくに活発に活動する会に発展しています。
高血圧学会における最も重要なミッションの一つは高血圧のガイドライン作成です。今回の2025年版では作成委員長を拝命し、2025年7月に発表、8月に刊行したところです。これまでのガイドラインも素晴らしいものでしたが、我が国の血圧管理状況が十分でないという現実を変えるために、エビデンスを重視しつつも、高血圧患者および国民の血圧を下げるという行動につながるガイドラインとすることにしました。行動につながるようなエビデンスをとくに加えていただき、さらに、メッセージをシンプルにし、わかりやすいように記載いただきました。また、記載内容が伝わりやすくするために、3部構成として、第1部は国民・集団、第2部は成人の本態性高血圧患者、第3部は二次性高血圧や特殊な病態を対象とするパートとしています。また、作成の初期の段階から市民代表や患者代表に加わっていただきました。ガイドラインの名称も「高血圧管理・治療ガイドライン2025」と“管理”を入れました。現在は、このガイドラインを広め、実践で利用していただく段階で、学会には広報等に力を入れていただいています。ガイドラインの企画・作成の段階から出版後の広報まで、理事長・理事を始め学会員、そして事務局の皆様にはご理解とご支援をいただきました。この場をお借りして、改めて感謝申し上げます。
学会賞
甲斐 久史 先生(弘恵会ヨコクラ病院)

- この度、2025年10月、第47回日本高血圧学会総会におきまして、日本高血圧学会賞の栄誉を賜り、誠にありがとうございました。思いもよらぬ受賞であり、ご推薦、ご選考いただいた皆様に深く感謝申し上げます。また、これまでの学会活動ならびに高血圧学に関わる研究の道を導き、支えてくださったすべての皆様に心から御礼申し上げます。
私が大学を卒業した1984年は、冠動脈インターベンション治療(PCI)がまさに黎明期を迎えた時代でした。急性期治療に強く惹かれていた私は「これこそ自分の進む道」と感じ、九州大学循環器内科に入局いたしました。中村元臣教授の主導された冠攣縮狭心症の病態解明の流れの中で、私の研究人生は血管平滑筋の収縮・弛緩を担う細胞内シグナリングの解析から始まりました。その後、ご縁があって、アンジオテンシンⅡ1型受容体をクローニングした米国エモリー大学のAlexander教授・Griendling教授のもと、そのシグナル伝達系の研究に従事する機会を得ました。帰国後は、念願であった第一線の市中病院でPCに没頭するつもりでしたが、研修医時代に病棟主任としてお世話になった今泉勉教授より思いがけずお声掛けをいただき、久留米大学心臓・血管内科に入局しました。そして今年3月の定年退職まで長きにわたりお世話になりました。今泉先生のもとでは、急性冠症候群、PCI後再狭窄、心不全などを対象に臨床・基礎の研究に取り組みました。いつしか、冠動脈疾患の二次予防から一次予防へ、脳心腎を含む多血管疾患としての心血管病予防へと関心が広がり、高血圧と血圧変動が研究のメインテーマとなっていきました。今泉先生の「まぁ、やってみんね」の言葉に背中を押され、研究室メンバーの努力と熱意に支えられて、高血圧の切り口から冠動脈疾患・心不全の基礎・臨床・臨床疫学と幅広く研究を進めることができました。また、新参者であった私を暖かく迎え入れて下さり、折に触れて的確なご助言とご支援をくださった高血圧学会の先輩、同僚、若手・中堅の皆様のお力添えにも深く感謝しています。今回の受賞では、変革する専門医制度の中で、新しい高血圧専門医の構築に向けた取組みをご評価いただいきました。これは歴代の専門医制度委員会の諸兄諸氏、特に土肥靖明先生、平和伸仁先生、有馬秀二先生、勝谷友宏先生のお働きによるものであり、あらためて敬意を表します。さらに、歴代高血圧ガイドライン作成委員会の委員長ならびに委員の先生方からは、高血圧学への造詣の深さとエビデンスへの洞察力、そして互いを尊重しあいながら真摯に討議を重ね、世界をリードするガイドラインを作り上げて行かれる姿を間近に見せていただきました。この経験は私にかけがえのないとって宝です。
今回の受賞講演は「Hypertension as Orchestrated Science」というタイトルにしました。学生時代に打ち込んだ九州大学フィルハーモニーオーケストラで学生指揮者を務めた経験から、私は、想い込めてベストのperformanceをめざす個々のplayerを尊重しつつ、弦・管・打の各パートを揃え、オーケストラとしての響きを作り上げる。さらに全体を俯瞰して、自分とplayer達の想いを吹き込みながら繊細で複雑なハーモニーを織りなしていく醍醐味を学びました。細胞をみても、細胞膜の受容体・チャンネル・ポンプや細胞内小器官がそれぞれ固有かつ自律的機能を持ちながら、種々の細胞内シグナリングでクロストークしながらことで細胞機能と調和を維持しています。その破綻が、全身の疾患に繋がります。高血圧学では、血圧やバイオマーカーを通じて、個々の臓器、血管、組織の状態見つめ、再度、全身レベルで見直し、何がどのように調整されオーガナイズされているのか、どこに破綻が生じているかを捉える必要があります。その意味でHypertensionはOrchestrated Scienceだと言えると考えています。高血圧学会も同様です。高血圧関連領域の専門医、内科系医師、非内科系医師が、アカデミア・基幹病院・市中病院・クリニックの立ち場から、メディカルスタッフ・地域や行政とともに、患者さんや国民と血圧管理を通じて健康長寿をめざし協働しています。そして、高血圧学会は、会員一人ひとりの想いを紡ぎながら高血圧制圧という目標に向かって調和のある歩みを続けています。このような学会の発展にわずかながらでもかかわる事ができたことに心から感謝いたします。そして、これからの高血圧学の未来に向けて引き続き微力を尽くして参りたいと存じます。
学術賞
小豆島 健護 先生(横浜市立大学)

- この度は、日本高血圧学会 第15回学術賞を賜り、誠に有難うございます。本賞は、私が尊敬する諸先生方が受賞されてきた大変栄誉ある賞であり、身に余る光栄と存じます。
私は、大学院に進学してから、田村功一主任教授(横浜市立大学医学部 循環器・腎臓・高血圧内科学教室)のご指導のもと、一貫して組織レニン‐アンジオテンシン系(RAS)の病態生理学的意義の解明研究に取り組んでまいりました。我々の研究室では、以前よりAT1受容体関連蛋白(ATRAP)に関する研究を行っており、ATRAPはAT1受容体の細胞内取り込みを促進することで同受容体のシグナル経路を抑制する組織RAS活性抑制因子であることを報告してきました。大学院生時代には、脂肪組織特異的ATRAP高発現による脂肪組織RAS活性抑制が、肥満症と随伴するインスリン抵抗性を改善させることを明らかにしました。大学院修了後は、RAS研究の世界的権威であるThomas Coffman教授(Duke-NUS Medical School:米国デューク大学-シンガポール国立大学共同医学部大学院)の研究室に留学させていたただき、糖尿病性腎症におけるRASの病態生理学的意義の解明研究に取り組み、RAS活性化を背景とした腎エネルギー代謝障害が病態進展の一因であることを明らかにしました。帰国後は、留学中に得た成果を基にさらに研究を展開させるとともに、これまでの組織RASに関する知見を皮膚組織にも拡大し、高血圧関連生活習慣病および加齢性臓器障害の新規病態基盤の解明研究に着手しており、超高齢社会における生活習慣病克服のため、皮膚組織機能改善を標的とした革新的治療法の開発を目指しています。その研究成果の一部として、皮膚組織RASの活性亢進が末梢血管の過剰収縮を介して高血圧の進展に寄与することを明らかにしました。
これまでにRAS研究は世界中でやり尽くされてきた感もあり、既に様々なRAS阻害薬が開発され実臨床で多くの患者様の病態改善に貢献している状況ではあります。しかしながら、生物が進化の過程で獲得したRASは、やはり生体にとって必要不可欠な内分泌系であり、これまでの研究で見落とされた未知の部分がまだまだ存在し、その追究が新たな重要な発見につながると信じております。この度の受賞を励みにし、引き続き研究活動に精進してまいりたいと存じます。
末筆になりましたが、横浜市立大学医学部 循環器・腎臓・高血圧内科学教室の田村功一主任教授および涌井広道准教授には、大学院生時代より多くのご指導をいただいてまいりました。この場を借りまして、心より御礼を申し上げます。
日本高血圧学会 歴代受賞者について
日本高血圧学会 栄誉賞
日本高血圧学会 学会賞
日本高血圧学会 学術賞
学術賞の公募について規定
日本高血圧学会は、将来の高血圧学の進歩に寄与する顕著な研究を発表し本会の発展に大いに期待される会員を選考し、日本高血圧学会 学術賞を授与いたします。詳細は下記PDFをご覧ください。
第16回学術賞
応募締切:令和8年4月30日(消印有効)









