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人を対象とする医学系研究Q&A【研究資金、COI】

(2015年9月29日初版。必要に応じて随時改訂いたします。ご意見は学会事務局までお願いいたします。)

5.研究者個人のCOI自己管理: COIの開示

Q5-1 学会でのCOIの開示は、筆頭演者が開示基準に達していなければ、「COIなし」としてよいですか?それとも、共同演者も含めてCOIの開示をしなくてはいけないですか?
A5-1

現在の基準では、筆頭演者のCOIを開示することになっています。開示すべき項目は下記の①~⑨です。

① 企業や営利を目的とした団体の役員、顧問職、社員

② エクイティ(株式、出資金、ストックオプション、受益権など)の保有

③ 企業や営利を目的とした団体からの特許使用料

④ 企業や営利を目的とした団体から、会議の出席(発表)に対し、研究者を拘束した時間・労力に対して支払われた日当(講演料など)

⑤ 企業や営利を目的とした団体がパンフレットなどの執筆に対して支払った原稿料

⑥ 企業や営利を目的とした団体が提供する研究費(治験、受託研究など)

⑦ 企業や営利を目的とした団体が提供する奨学寄附金

⑧ 企業や営利を目的とした団体が提供する寄付講座

⑨ その他の報酬(診療や研究とは直接関係ない旅行費用や贈答品)

①~⑤と⑧~⑨は筆頭演者個人の状況を報告します。

⑥治験や受託研究など研究費、⑦奨学寄附金は、筆頭著者の所属研究施設の状況を申告します。大学の場合は講座あるいは研究室単位、病院やセンターの場合は診療科単位が一般的です。筆頭演者は⑥と⑦について所属の長などに問い合わせて開示してください。

Q5-2 利益相反をきちんと開示すれば、講演料・原稿料等の収益あるいは奨学寄付金の額が大きくても、臨床研究を実施する上で問題はないのでしょうか?
A5-2

金額が大きい場合には、COIマネージメント上の問題が生まれる可能性があり、開示するだけでなく、何らかの利益相反委員会等のマネージメントを受けることが望ましいです。利益相反委員会を設置している機関においては、研究機関の長は研究責任者から受けた利益相反に関する状況について利益相反委員会の意見を求めることが望ましいと考えられます(「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針ガイダンス」(118ページ))。利益相反委員会あるいは倫理委員会で問題ないと判断された場合は、研究の実施は可能です。但し、社会通念上、疑念を抱かれないように努めることが重要です。

Q5-3 COI状態が存在することで、研究計画や結果の解釈に影響を与える可能性や、影響があったと周りより疑われる懸念が指摘されていますが、COI状態が存在する研究者が研究を実施することも多いと思われます。研究の信頼性を担保するために、研究計画や研究実施体制でどのような点に注意すべきでしょうか?
A5-3

社会的に固定された絶対的な対策はありません。常に、研究者自身、研究の実施や結果そのものに対して社会的疑念を抱かれないように配慮すること、疑念が呈されても十分説明責任を果たすことができる研究体制の構築に配慮することが必要です。以下は例として参考にして下さい。

研究者A氏が、B社と重大なCOI状態が存在する状況とします。B社の薬剤や医療機器に関する研究において、B社が全く関係しない体制で実施することも、あるいはB社と契約(委受託研究、共同研究)を結んでCOI状態を開示して研究を実施することも可能です。ただ、研究結果の中立性が求められる試験では、いずれの研究体制においても、B社が被験者のリクルートやデータ解析業務等、研究の中立性に疑念を抱かせるような役割に関わらせることは慎むべきです。

介入を伴う研究での注意点の例を列挙します。

  • 被験者の無作為化
  • 報告データのモニタリング体制の強化:研究資金や目的に応じて体制を検討する。一定の範囲で原データと照合することも必要。
  • ガイダンスに沿った原データの保存体制
  • 客観的な指標を用いたエンドポイントの設定と事前の判定基準設定
  • ソフトエンドポイントを含む複合エンドポイントを一次エンドポイントとする場合、二次エンドポイントにハードエンドポイントだけの解析実施
  • エンドポイント判定委員についての配慮:B社との関係者は含めない。B社と重大なCOIを持たない委員を含めるなど。
  • 専門家の意見を含めたデータ解析計画書の事前設定(主要結果報告後の探索的な後付解析は、その旨を論文などで明記すれば必ずしも事前の解析計画書に含まれなくても良い)
  • 固定されたデータ解析セットを研究者が共有できる体制
  • 結果の解釈についてA氏が最終決定権を持たない体制:運営委員会などで決定する
Q5-4 学会発表時のCOI開示は「研究内容に関するもの」とありますが、降圧薬を用いた研究の場合、その降圧薬を販売している企業についてだけ開示すればよいですか?
A5-4

臨床研究の場合、A社の奨学寄附金でA社の薬剤に関係する研究はできないので、A社だけの記載をすることは却って疑念を招きやすいという側面もあります。

降圧薬を販売しているすべての企業、血圧測定や治療に関する器機を販売しているすべての企業について開示する方が疑義を生じにくいです。できるだけ広く積極的に開示することが勧められます。

開示する範囲について明確な規定があるわけではありませんが、国際的に用いられている医学雑誌編集者国際委員会 (ICMJE)の申告様式では、肺がんにおけるEGFR antagonistの研究の場合、がんの診断や治療全般のCOIについて申告が必要という説明があります。

Q5-5 奨学寄付金などのCOI開示基準について、大学ではある一定の額を事務が控除します。開示基準は、大学による控除前の金額で考えるべきですか、それとも控除後の金額で判断すべきでしょうか?原稿料や講演料についても、税金の控除前の額と源泉徴収後の手取り額のどちらで判断すべきでしょうか?
A5-5

講座等で使用可能な金額ではなく、製薬企業から大学などに支払われた金額(事務が控除する前の金額)で判断して下さい。受託研究や共同研究などでは間接経費を含めて企業が大学などに寄付した総額です。原稿料や講演料などの個人の収入についても税金の控除前の額で判断します。

Q5-6 開示期間に関しては、製薬企業から寄附の申し出を書面で受けた日付で考えるべきでしょうか?それとも、実際に大学の口座に振り込まれた日付で判断すべきでしょうか?原稿料や講演料なども実際の業務を行った日と支払いを受けた日が異なることがあります。どちらの日付で判断すべきでしょう。
A5-6

研究施設の基準があればその基準に従ってください。基準がなければ、本人が一定の基準を設定し、必要に応じて説明責任を果たせるように対応しておくことが大切です。

考え方の一例ですが、透明性ガイドラインで企業が寄付金を開示する場合、それぞれの企業の会計年度における実際の支払いを示していると思われます。そちらとの整合性を気にされる場合は、全て実際の支払い日になります。しかし、講演料などで実際の業務を行った日に企業からの支払いが生じているとの観点では業務の実施日が正しいとも言えます。意図的に開示すべきCOIを開示しないですむように日付を設定したととられないように配慮してください。

Q5-7 学会の口述発表や講演会の際にCOIについてスライドで示すことになっています。COIがある場合、どの程度の時間示すという決まりはありますか?
A5-7

スライドを示す時間に決まりはありません。聴衆が内容を確認できるだけの時間は必要と考えますので、記載されている量に応じて発表者が適切と思える時間掲示してください。

Q5-8 臨床研究の実施や結果発表において、COIは開示するだけでなく、適切に管理すること(マネージメント)が必要と聞きますが、マネージメントは具体的にどのようにするのですか?
A5-8

結果発表段階は、学会や雑誌の基準に従ってCOI状態を開示するだけです。適切な管理は研究計画から実施段階において重要です。研究組織は、所属する研究者のCOI状態を把握すると共に、研究計画の倫理審査の段階でCOI状態を含めて審査を行います。倫理審査委員会やCOI委員会は、研究の信頼性を損ねる可能性があると判断した場合、ヒアリングの実施や研究における役割の変更などの助言・指示を行います。

重大なCOI状態をどのレベルと捉えるかは研究の目的や方法、場合によってはその時代の社会的背景によっても異なります。自分が開発に関わった薬剤や機器の有用性を検討するための臨床研究では、社会的には利益誘導が生じる可能性が高いと判断されますので、結果の判断に関わりえる役割を担うべきではないでしょう。必ずしも研究に参加できない訳ではありません。重大なCOI状態を緩和するための措置(ピア・レビューの徹底、報告、監査など)を取ることも一つの解決策になると考えられます。

4. 奨学寄附金と臨床研究、研究資金 6. 学会におけるCOIの管理体制:委員会、公益通報
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