日本高血圧学会理事長からのメッセージ
~情報ネットワーク時代の高血圧学の発展を目指して~
2024年10月から前理事長野出孝一先生の後任として、第13代日本高血圧学会理事長を拝命いたしました。高血圧は脳卒中、心血管病、腎臓病の最大のリスクであります。これまで日本高血圧学会は、その制圧に向けて大きな貢献をしてまいりました。近年は、「良い血圧で健やか100年人生」をスローガンに、「日本高血圧学会みらい医療計画 -JSH Future Plan-」を精力的に推進しています。今後、それを加速するため、特に力を入れたい3点が、デジタルハイパーテンション研究の充実、実装高血圧学の実践、そして国際化です。
デジタルハイパーテンション研究は、昨今の爆発的に拡大変化するデジタル情報時代において、血圧をマスターバイオマーカーとして、今後ますます発展する研究領域です。その学術コンセプトを、遺伝、生活環境、生活行動・習慣に関わる生体情報を時間(時系列情報)と空間(マルチ情報)の関連ネットワークで捉えた、「時空間ネットワーク高血圧学」と定義したいと思います。あらゆる生体情報を時系列の血圧変動と連動させることにより包括的付加価値を生み出し、個別最適化予見医療の実現につなげます。具体的研究テーマには、ウェアラブル血圧計の研究開発、血管機能評価機器やICT情報連結システムの構築などの医工連携研究、AIを用いたデータサイエンス研究、さらに、アプリによる血圧データ管理システムやデジタル療法の開発研究などが含まれます。国際的ハーモナイゼーションを行いながら、新規デバイスやICTシステムをヘルスケアと医療へ実装する際に必要なガイドラインの作成や標準化などにも力を入れてまいります。
実装高血圧学の実践では、2025年に発表予定の「高血圧管理・治療ガイドライン(JSH2025)」の社会浸透を目指します。ガイドラインには、これまで人類が積み上げたエビデンスに基づく、高血圧の診断や治療に関する重要な最新情報が全て網羅されますが、問題はその先です。日本の血圧コントロール状況は世界的にみても十分ではありません。日本高血圧学会が長年早朝高血圧の制圧に力を入れてきたにもかかわらず、未だ治療中高血圧患者の半数以上がコントロールされていない極めて残念な状況にあります。したがって、まず家庭血圧、特に早朝高血圧の管理の徹底に向けた活動に今一度、全力で取り組んでゆきます。多職種、産官学の学会員があらゆる知恵を絞って、未解決問題であるクリニカルイナーシャやアドヒアランスの改善を図るべく、減塩などの生活習慣の指導、合剤や新規の降圧薬の導入・組み合わせ検討、また、新たな非薬物療法であるデジタル療法や腎デナベーションの臨床応用を推進しながら、実地診療から出た新しい成果を高血圧学会で発表していただきたいと思います。世界的にも独創性の高い、高血圧ゼロのまち、モデルタウン事業の全国展開、ナトカリ比をガイドにした減塩活動と家庭血圧をガイドにした高血圧治療の普及活動等は、多くの地域住民の協力を得て、成果を上げています。日本から発信する実装高血圧学実践の世界モデルであり、継続して推進します。
最後に国際化ですが、これまで、日本高血圧学会は世界に先駆けて新規性や質の高い基礎研究や疫学・臨床研究を牽引してまいりました。諸外国の高血圧学会との連携も積極的に行なっており、特にコロナ禍直後の2022年に行った第44回日本高血圧学会総会と同時開催の国際高血圧学会(ISH2022KYOTO)は、伊藤裕大会長のもと総力を挙げて取り組み、成功を納めました。また、日本高血圧学会の機関誌であるHypertension Researchは、IF4.3、年間1200編もの論文投稿があり、国際英文誌としての位置づけも定着してまいりました。これからも、国際高血圧学会との連携を強め、世界の情報をいち早く取り入れつつ、アジア各国の研究者と共にHypertension Researchを通じて、学術研究ならびに地域実装事例を世界に発信し、国際貢献を加速してゆきたいと考えています。
日本高血圧学会が、より広く深く、社会貢献してゆけますよう、これからの2年間、何卒、ご協力とご支援をお願いいたします。
特定非営利活動法人 日本高血圧学会 理事長
自治医科大学 内科学講座循環器内科学部門 教授