倫理行動規範
日本高血圧学会会員の科学者としての研究活動に係る倫理行動規範の作成について
日本学術会議は2006年に「科学者の行動規範」を発表し、2013年にその改訂版を発表した。そこでは、科学者は、学問の自由の下に、特定の権威や組織の利害から独立して自らの専門的な判断により真理を探究するという権利を享受すると共に、専門家として社会の負託に応える重大な責務を有しており、特に、科学活動とその成果が社会に対して広く深く影響を与える現代において、社会は科学者が常に倫理的な判断と行動を為すことを求めていることを明確に示している。研究活動が直接に生命に結びつく医学系分野において、科学者である研究者に対する社会からの期待はとくに大きく、その行動に対する責任は非常に重い。しかし、我が国の医学系学会活動において、これまで明確に倫理行動規範を提示しているものはなかった。日本糖尿病学会では、2014年6月に他の学会に先駆けて、「日本糖尿病学会会員の倫理行動規範」において、医学研究者としての行動について倫理的規範を明示し、その具体的な行動内容をQ&Aで説明をしている。今回、日本高血圧学会でも日本学術会議の「科学者の行動規範-改訂版-」を基本に一部を変更する形で「日本高血圧学会会員の科学者としての研究活動に係る倫理行動規範」を作成した。現在、日本高血圧学会では、第三者委員会による「臨床研究に関する提言」に沿って、臨床研究などの医学研究活動に対するさまざまな制度整備やガイドライン作成を開始している。この「倫理行動規範」は、それに先駆けて発表するものであり、今後、それらと整合性を取るとともに、さらに会員や社会からの意見を聞き、改訂していく予定である。
2014年10月18日
日本高血圧学会会員の科学者としての研究活動に係る倫理行動規範
この倫理行動規範は、日本高血圧学会に所属する会員が、科学者として研究およびそれに関連した活動において遵守すべき必要最小限の基準を定めるものである。本規範を作成するに当たっては、日本学術会議の「科学者の行動規範-改訂版-」(平成25年1月25日)を抜粋・引用を行い、一部変更した。高血圧学会および会員は、ここに述べられている社会に対する責任を常に意識し、あらゆる活動において本規範を忠実に遵守することが求められる。
Ⅰ.科学者の責務
(科学者の基本的責任)
1 科学者は、自らが生み出す専門知識や技術の質を担保する責任を有し、さらに自らの専門知識、技術、経験を活かして、人類の健康と福祉、社会の安全と安寧に貢献するという責任を有する。
(科学者の姿勢)
2 科学者は、常に正直、誠実に判断、行動し、自らの専門知識・能力・技芸の維持向上に努め、研究によって生み出されるエビデンスの正確さや正当性を科学的に示す最善の努力を払う。
(社会の中の科学者)
3 科学者は、科学の自律性が社会からの信頼と負託の上に成り立つことを自覚し、科学・技術と社会の関係を広い視野から理解し、適切に行動する。
(社会的期待に応える研究)
4 科学者は、社会が抱く真理の解明や様々な課題の達成へ向けた期待に応える責務を有する。研究環境の整備や研究の実施に供される研究資金の使用にあたっては、そうした広く社会的な期待が存在することを常に自覚する。
(説明と公開)
5 科学者は、自らが携わる研究の意義と役割を公開して積極的に説明し、その研究が人間、社会、環境に及ぼし得る影響や起こし得る変化を評価し、その結果を中立性・客観性をもって公表すると共に、社会との建設的な対話を築くように努める。
(科学研究の利用の両義性)
6 科学者は、自らの研究の成果が、自身の意図に反して、非倫理的あるいは反社会的に使用される可能性もあることを認識し、研究の実施、成果の公表にあたっては、社会に許容される適切な手段と方法を選択する。
Ⅱ.公正な研究
(研究活動)
7 科学者は、自らの研究の立案・計画・申請・実施・報告などの過程において、本規範の趣旨に沿って誠実に行動する。科学者は研究成果を論文などで公表することで、各自が果たした役割に応じて功績の認知を得るとともに責任を負わなければならない。研究・調査データの記録保存や厳正な取扱いを徹底し、ねつ造、改ざん、盗用などの不正行為を為さず、また加担しない。
(研究環境の整備及び教育啓発の徹底)
8 科学者は、責任ある研究の実施と不正行為の防止を可能にする公正な環境の確立・維持も自らの重要な責務であることを自覚し、高血圧学会を含む科学者コミュニティ及び自らの所属組織の研究環境の質的向上、ならびに不正行為抑止の教育啓発に継続的に取り組む。また、これを達成するために社会の理解と協力が得られるよう努める。
(研究対象などへの配慮)
9 科学者は、研究への協力者の人格、人権を尊重し、福利に配慮する。動物などに対しては、真摯な態度でこれを扱う。
(他者との関係)
10 科学者は、他者の成果を適切に批判すると同時に、自らの研究に対する批判には謙虚に耳を傾け、誠実な態度で意見を交える。他者の知的成果などの業績を正当に評価し、名誉や知的財産権を尊重する。 また、学会等の科学者コミュニティ、特に自らの専門領域における科学者相互の評価に積極的に参加する。
Ⅲ.社会の中の科学
(社会との対話)
11 科学者は、社会と学会等の科学者コミュニティとのより良い相互理解のために、市民との対話と交流に積極的に参加する。また、社会の様々な課題の解決と福祉の実現を図るために、政策立案・決定者に対して政策形成に有効な科学的助言の提供に努める。その際、科学者の合意に基づく助言を目指し、意見の相違が存在するときはこれを解り易く説明する。
(科学的助言)
12 科学者は、公共の福祉に資することを目的として研究活動を行い、客観的で科学的な根拠に基づく公正な助言を行う。その際、科学者の発言が世論及び政策形成に対して与える影響の重大さと責任を自覚し、権威を濫用しない。また、科学的助言の質の確保に最大限努め、同時に科学的知見に係る不確実性及び見解の多様性について明確に説明する。
(政策立案・決定者に対する科学的助言)
13 科学者は、政策立案・決定者に対して科学的助言を行う際には、科学的知見が政策形成の過程において十分に尊重されるべきものであるが、政策決定の唯一の判断根拠ではないことを認識する。科学者コミュニティの助言とは異なる政策決定が為された場合、必要に応じて政策立案・決定者に社会への説明を要請する。
Ⅳ.法令の遵守など
(法令などの遵守)
14 科学者は、研究の実施、研究費の使用等にあたっては、法令や関係規則、学会などの指針(ガイドライン)などを遵守する。また、これらに規定されていないことであっても、医学研究者として、生命倫理や医療倫理を最大限に尊重するとともに、社会の規範や慣例を十分に配慮する。
(差別の排除)
15 科学者は、研究・教育・学会活動において、人種、ジェンダー、地位、思想・信条、宗教などによって個人を差別せず、科学的方法に基づき公平に対応して、個人の自由と人格を尊重する。
(利益相反)
16 科学者は、自らの研究並びにそれに関連する審査、評価、判断、科学的助言及び発表などにおいて、自らの研究と密接に関連する重要な経済的利益と自らの研究活動との間におけるCOI(利益相反)のマネジメントを適切に行うものとする。また、責務相反に十分に注意を払い、自らのインテグリティの確保及び公共性に配慮しつつ適切にマネジメントを行うものとする。
以上
(附則)
この規範は、平成26年10月18日から施行する。
本規範は、日本学術会議声明「科学者の行動規範-改訂版-」(平成25年1月25日)(http://www.scj.go.jp/ja/
info/kohyo/pdf/kohyo-22-s168-1.pdf)を基本に一部を変更したものである。