平成28年度日本医学会連合加盟学会連絡協議会報告(平成29年2月9日開催)
平成28年度日本医学会連合加盟学会連絡協議会報告(平成29年2月9日開催)
「医学研究等における個人情報保護法等の改正について」
個人情報保護法改正(平成27年9月成立・公布)に伴い、日本医学会連合から昨年8月「医学研究などにおける個人情報の取扱い等に関する合同会議(文部科学省、厚生労働省、経済産業省のいわゆる三省合同会議)」への要望書(日本医学会連合 会長 高久史麿)が提出され、これを契機に同法改正に伴う医学研究遂行上の大きな懸念が噴出しておりました。その後、パブコメ募集に応じて1,500件余り(およそ500件がゲノム関連)の大量の意見が寄せられ、議論は大きく進展し、臨床研究に関わる懸念は後述のようにおよそ払拭されるに至っております。
本年5月30日の個人情報保護法施行および同改正指針の同時施行の予定を見据え、これまでの経緯を踏まえて2月9日に標記連絡協議会(126学会参加)が開催されました。末尾にリスト化しました関係のサイト等の情報(特に改正個人情報保護法自体の内容については本報告では網羅し得ません)や今月末公布予定の改正指針をご参照いただきたいと思いますが、高血圧学会を代表して協議会に参加致しましたので、取り急ぎ報告記としてまとめさせていただきます。
三省合同会議では、元来、個人情報保護の徹底、研究対象者の自由意思による同意取得等の基本方針を踏まえて全研究者が遵守すべき統一的なルールを制定するための指針の見直しを進めておりました。これらの経緯の中では、決して従来からの医学研究を抑制する意図は無かったとのことです。個人情報保護は、「個人情報保護法」(民間事業者(私大、学会、私立病院、民間業者等)に適用)、「行政機関個人情報保護法」(国の行政機関、国立研究所等に適用)、「独立行政法人個人情報保護法」(独立行政法人、国立大学等に適用)、「個人情報保護条例」(地方公共団体、公立大学等に適用)と研究主体毎に適用される法律が異なるため、複数施設間での共同研究などでの試料・情報のやり取り等に支障のないよう、研究対象者の保護のため統一的なルール整備が求められ指針の見直しがなされました。
最も重要なのは、個人情報保護法ガイドライン(通則編)第76条第1項第3号の適用除外項目が確定されたことです。「大学その他の学術研究を目的とする機関若しくは団体又はそれらに属する者」の「学術研究の用に供する目的」の活動であれば、施設間の適用法の相違に関わらず、法第4章の規定は適用されない(除外される)ことが確認されました。すなわち、学術研究活動の自由は尊重され、個人情報保護の名のもとに研究遂行が不可能になるような事態は無いことが示されたと言えます。一方、単に製品開発を目的とするような活動のみでは適用除外されないことも明記されております。
今回の改正で、既にご承知のように種々の定義が見直され、情報の取扱いが厳格化されている点は十分認識した上で研究活動を展開しなければなりませんが、対応を適正化することによって従来からの研究も支障なく遂行可能と考えられました。
個人識別符号の定義が見直され、容貌や声紋、手や指の静脈形状、指紋・掌紋などに加えて細胞から採取されたDNAを構成する塩基配列も加えられた点は広く知られております。ただ個人の識別性は有っても、直接間接に生身の人間に繋がらない限り、誰のゲノムデータかは分からないので個人の特定には至らず、「個人到達性はない」と言えます。現状では、全核ゲノムシークエンスデータ、全エクソームシークエンスデータ、全ゲノムSNPデータ、あるいは互いに独立な40以上のSNPから構成されるシークエンスデータやSTR9-10座位以上であれば個人識別性は確かと言えるそうで、「遺伝型情報により本人の認証を可能にした個人識別符号」に該当すると判断しますが、これらは技術革新などで将来的に常に変化して行くものと考えられます。
要配慮個人情報が定義(本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱い特に配慮を要する記述等が含まれる個人情報)され、この中に病歴が含まれておりますが、学術研究に用いることは十分可能です。匿名加工に関する規定も細かく見直されておりますが、基本的に匿名化後のものに個人識別性が有るか無いかの判断が重要と思われます。インフォームドコンセントの原則同意が必要ですが、原則同意を実現できない場合が問題になるかと思います。個人識別性の無いものや匿名加工情報(措置を講じて特定の個人を識別することが出来ないよう加工した情報で個人情報が復元できないようにしたもの)はインフォームドコンセントの手続き不要ですが、個人識別性のある試料・情報の場合は、通知/公開や原則オプトアウトが求められます。
海外への試料・情報の提供に関しても、同意、匿名化、倫理委員会への付議、機関の長の許可などが段階的に求められます。「個人識別性の有無」「インフォームド・コンセントの手続き」「海外への試料・情報の提供」などで倫理委員会の役割が従来以上に重要になって来るものと思われます。
個人情報を第三者に提供する場合、提供元および提供先夫々で記録の作成・保管が求められます。提供元の研究機関では提供後3年、提供先の医療機関では研究終了の報告日から5年後まで記録は保管しなければなりません。
当初懸念が噴出したような、臨床研究が遂行困難となる事態は無いことに安堵しておりますが、個人情報に対するより厳格な対応が求められていることはご承知いただきたいと思います。その他今月末に交付予定の改正指針のガイダンスやQ&Aが種々準備されるとのことで、今後各施設・医療機関でも逐一講習会などが実施されるものと思いますので、それらを通じて理解を深めていただきたいと思います。
以上、取り急ぎ参考までに報告させていただきました。
参考情報
個人情報の保護に関する法律
http://www.ppc.go.jp/personal/legal/
個人情報の保護に関する法律施行令・施行規則
http://www.ppc.go.jp/personal/preparation/
個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン
通則編
http://www.ppc.go.jp/files/pdf/guidelines01.pdf
外国にある第三者への提供編
http://www.ppc.go.jp/files/pdf/guidelines02.pdf
第三者提供時の確認・記録義務編
http://www.ppc.go.jp/files/pdf/guidelines03.pdf
匿名加工情報編
http://www.ppc.go.jp/files/pdf/guidelines04.pdf
ライフサイエンス広場
http://www.lifescience.mext.go.jp/council/council015.html
「医学研究等における個人情報保護法等の改正について」
個人情報保護法改正(平成27年9月成立・公布)に伴い、日本医学会連合から昨年8月「医学研究などにおける個人情報の取扱い等に関する合同会議(文部科学省、厚生労働省、経済産業省のいわゆる三省合同会議)」への要望書(日本医学会連合 会長 高久史麿)が提出され、これを契機に同法改正に伴う医学研究遂行上の大きな懸念が噴出しておりました。その後、パブコメ募集に応じて1,500件余り(およそ500件がゲノム関連)の大量の意見が寄せられ、議論は大きく進展し、臨床研究に関わる懸念は後述のようにおよそ払拭されるに至っております。
本年5月30日の個人情報保護法施行および同改正指針の同時施行の予定を見据え、これまでの経緯を踏まえて2月9日に標記連絡協議会(126学会参加)が開催されました。末尾にリスト化しました関係のサイト等の情報(特に改正個人情報保護法自体の内容については本報告では網羅し得ません)や今月末公布予定の改正指針をご参照いただきたいと思いますが、高血圧学会を代表して協議会に参加致しましたので、取り急ぎ報告記としてまとめさせていただきます。
三省合同会議では、元来、個人情報保護の徹底、研究対象者の自由意思による同意取得等の基本方針を踏まえて全研究者が遵守すべき統一的なルールを制定するための指針の見直しを進めておりました。これらの経緯の中では、決して従来からの医学研究を抑制する意図は無かったとのことです。個人情報保護は、「個人情報保護法」(民間事業者(私大、学会、私立病院、民間業者等)に適用)、「行政機関個人情報保護法」(国の行政機関、国立研究所等に適用)、「独立行政法人個人情報保護法」(独立行政法人、国立大学等に適用)、「個人情報保護条例」(地方公共団体、公立大学等に適用)と研究主体毎に適用される法律が異なるため、複数施設間での共同研究などでの試料・情報のやり取り等に支障のないよう、研究対象者の保護のため統一的なルール整備が求められ指針の見直しがなされました。
最も重要なのは、個人情報保護法ガイドライン(通則編)第76条第1項第3号の適用除外項目が確定されたことです。「大学その他の学術研究を目的とする機関若しくは団体又はそれらに属する者」の「学術研究の用に供する目的」の活動であれば、施設間の適用法の相違に関わらず、法第4章の規定は適用されない(除外される)ことが確認されました。すなわち、学術研究活動の自由は尊重され、個人情報保護の名のもとに研究遂行が不可能になるような事態は無いことが示されたと言えます。一方、単に製品開発を目的とするような活動のみでは適用除外されないことも明記されております。
今回の改正で、既にご承知のように種々の定義が見直され、情報の取扱いが厳格化されている点は十分認識した上で研究活動を展開しなければなりませんが、対応を適正化することによって従来からの研究も支障なく遂行可能と考えられました。
個人識別符号の定義が見直され、容貌や声紋、手や指の静脈形状、指紋・掌紋などに加えて細胞から採取されたDNAを構成する塩基配列も加えられた点は広く知られております。ただ個人の識別性は有っても、直接間接に生身の人間に繋がらない限り、誰のゲノムデータかは分からないので個人の特定には至らず、「個人到達性はない」と言えます。現状では、全核ゲノムシークエンスデータ、全エクソームシークエンスデータ、全ゲノムSNPデータ、あるいは互いに独立な40以上のSNPから構成されるシークエンスデータやSTR9-10座位以上であれば個人識別性は確かと言えるそうで、「遺伝型情報により本人の認証を可能にした個人識別符号」に該当すると判断しますが、これらは技術革新などで将来的に常に変化して行くものと考えられます。
要配慮個人情報が定義(本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱い特に配慮を要する記述等が含まれる個人情報)され、この中に病歴が含まれておりますが、学術研究に用いることは十分可能です。匿名加工に関する規定も細かく見直されておりますが、基本的に匿名化後のものに個人識別性が有るか無いかの判断が重要と思われます。インフォームドコンセントの原則同意が必要ですが、原則同意を実現できない場合が問題になるかと思います。個人識別性の無いものや匿名加工情報(措置を講じて特定の個人を識別することが出来ないよう加工した情報で個人情報が復元できないようにしたもの)はインフォームドコンセントの手続き不要ですが、個人識別性のある試料・情報の場合は、通知/公開や原則オプトアウトが求められます。
海外への試料・情報の提供に関しても、同意、匿名化、倫理委員会への付議、機関の長の許可などが段階的に求められます。「個人識別性の有無」「インフォームド・コンセントの手続き」「海外への試料・情報の提供」などで倫理委員会の役割が従来以上に重要になって来るものと思われます。
個人情報を第三者に提供する場合、提供元および提供先夫々で記録の作成・保管が求められます。提供元の研究機関では提供後3年、提供先の医療機関では研究終了の報告日から5年後まで記録は保管しなければなりません。
当初懸念が噴出したような、臨床研究が遂行困難となる事態は無いことに安堵しておりますが、個人情報に対するより厳格な対応が求められていることはご承知いただきたいと思います。その他今月末に交付予定の改正指針のガイダンスやQ&Aが種々準備されるとのことで、今後各施設・医療機関でも逐一講習会などが実施されるものと思いますので、それらを通じて理解を深めていただきたいと思います。
以上、取り急ぎ参考までに報告させていただきました。
平成29年2月10日
学術委員会委員長、広報・情報委員会委員長
長谷部直幸
学術委員会委員長、広報・情報委員会委員長
長谷部直幸
参考情報
個人情報の保護に関する法律
http://www.ppc.go.jp/personal/legal/
個人情報の保護に関する法律施行令・施行規則
http://www.ppc.go.jp/personal/preparation/
個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン
通則編
http://www.ppc.go.jp/files/pdf/guidelines01.pdf
外国にある第三者への提供編
http://www.ppc.go.jp/files/pdf/guidelines02.pdf
第三者提供時の確認・記録義務編
http://www.ppc.go.jp/files/pdf/guidelines03.pdf
匿名加工情報編
http://www.ppc.go.jp/files/pdf/guidelines04.pdf
ライフサイエンス広場
http://www.lifescience.mext.go.jp/council/council015.html
参考ファイル
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