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特定健診・特定保健指導実施に対する、日本高血圧学会よりの提言改訂について

特定健診・特定保健指導における高血圧学会よりの提言を1月に公表しましたが、低リスク(危険因子0)軽症高血圧患者については肥満がないため特定保健指導の対象とならず、情報提供としていました。
この点について、厚生労働省に要請しておりましたが、生活習慣病対策室より特定保健指導の選定は無理であるが、市町村の健康増進事業において、低リスク軽症高血圧患者の保健指導が可能となったとの連絡を受けました。
そこで、低リスク軽症高血圧患者の特定保健指導への選定に関する高血圧学会の要望を記載し、認められるまでは市町村の健康増進事業を薦めるとの内容を入れて改訂いたしました。改訂版の提言を参考にしていただければ幸いです。

平成20年4月
特定非営利活動法人日本高血圧学会
理事長 松岡博昭
総務委員長 島本和明

特定健診・特定保健指導実施に対する日本高血圧学会よりの提言

平成20年4月より特定健診・特定保健指導が実施される。平成19年4月に健診・保健指導実施に対する標準的な健診・保健指導プログラム(確定版)が厚生労働省より提示され、各保険者団体やアウトソーシングによる受け皿となる医療機関で準備に入ってきている。

本健診・保健指導は、メタボリックシンドロームの概念を取り入れて保健指導の対象者を選定し、保健指導によって生活習慣を改善して生活習慣病を予防するとしている。本邦において増加しつつある心血管疾患の1次予防にあたって、腹部肥満を中心に、糖代謝異常、血圧高値、脂質代謝異常を是正するという戦略で大きな意義があり、高血圧の予防、治療対策としても大いに期待できるものと考える。日本高血圧学会としては、特定健診・特定保健指導の実施を円滑にすすめるためにできる限りの支援・協力をしたいと考えている。

最終案に示されているプログラムの中で、特に高血圧対策の実施にあたり、より詳細に補完する立場から、高血圧学会の見解を示すものである。

  1. 診断基準について
    血圧130/85mmHg以上をもって基準値としているが、この値は正常高値血圧の基準値で、世界的にも同一の基準が用いられており、本邦においても正常高値血圧から心血管疾患も増加するなど疫学的にはエビデンスが証明されているところで、この基準値を支持する。
  2. 血圧測定法
    血圧の測定法であるが、ガイドラインに示す、安定した2回の血圧(差が5mmHg以内)の平均をとるという方法は健診においては必ずしも容易でないことは理解できる。国民健康栄養調査・循環器疾患基礎調査で用い、今回のプログラムでも用いている2回の血圧測定で平均をとることに同意したい。尚、家庭血圧計は上腕カフ・オシロメトリック法を用いる。
  3. 家庭血圧値の応用
    プログラムにも記載されているが、血圧は変動が大きいものであり、健診時にも白衣高血圧の効果はでる可能性がある。本来の血圧値を把握するためにも、家庭血圧の値を参考にすることが望ましい。そこで、アンケートをとる際に、あるいは血圧を測定する際に、家庭血圧を測っているかどうかの確認とその際の血圧値を記録に残すことを提案したい。高血圧治療ガイドライン(JSH 2004)では、家庭血圧値は、135/85mmHg以上で高血圧とされ、125/80mmHg未満が正常血圧とされている。従って、日本高血圧学会が薦めている方法に準拠して測定された家庭血圧が、125/80mmHg未満の場合、健診時の血圧が130/85mmHg以上であっても白衣効果とみなし、血圧高値とは判定しないという判断基準とする。その後の健診や保健指導を行う場合には、測定血圧値に加えて家庭血圧値も参考にして判断することとなる。
    一方で、健診時血圧が130/85mmHg未満であっても、家庭血圧が125/80mmHg以上の場合は、血圧高値と判断し、血圧基準は満たしているものとする。特に家庭血圧135/85mmHg以上の場合は、仮面高血圧であり、高血圧と同等の心血管疾患ハイリスクな状態と判断して、高血圧対策を開始すべきである。
  4. 受診勧奨について
    本プログラムでは、140/90mmHg以上の高血圧を受診勧奨の基準値としている。この値は高血圧の基準値であり、保険診療を考慮しても矛盾はない。一方で、本邦のJSH 2004では、140~159/90~99mmHgの軽症高血圧の場合、糖尿病や腎障害の合併症がない場合には、直ちに薬物療法をすすめているわけではない。JSH 2004では、表1に示すように心血管リスクの層別化を行っており、リスクは表2に示す。そして、リスク別の高血圧治療の方針を図1に示す。低リスクの軽症高血圧では、3ヶ月の生活習慣改善(食塩制限、肥満是正と運動療法)を行い、その後血圧が140/90mmHg未満にならない場合に薬物療法に入るとしている。

表1

表2

図1

JSH 2004の立場で受診勧奨を含めた血圧管理の方針を図2にまとめる。160/100mmHg以上の中等症高血圧以上では、直ちに受診勧奨すべきである。140~159/90~99mmHgの軽症高血圧では、糖尿病、腎障害等がある高リスクでは、直ちに受診勧奨すべきである。心血管リスクの立場からは、心血管疾患の危険因子が1つ以上ある中等リスク以上(メタボリックシンドロームに合致する場合を含む)では、血圧が140/90mmHg以上ということもあり、受診勧奨とする。当然であるが、この判断にあたり、家庭血圧も参考にして、125/80mmHg未満であれば白衣高血圧であり、高血圧と判断する必要はない。

図2

一方、140~159/90~99mmHgで危険因子0の低リスク対象については、JSH 2004ガイドラインによれば原則として受診勧奨となる。しかしながら、低リスクの軽症高血圧の場合、直ちに降圧薬療法に入らず、生活習慣の改善から治療を開始することになっている。このように危険因子0の低リスク軽症高血圧患者では直ちに受診勧奨する必要はなく、本来の選定対象と異なってはいるが、むしろ、特定保健指導のプログラムに沿って生活習慣の改善と血圧のチェックを行うことが望ましい。但し現状では肥満がないため選定対象とはならず情報提供となるが、情報提供にあたっては、高血圧であることを伝えると共に、減塩、食事療法、運動療法の生活習慣改善を提示し、家庭血圧や職場血圧を参考にして、少なくとも3ヶ月毎に血圧測定し、家庭血圧で135/85mmHg以上の場合には診療機関を受診するように薦める。それ以下の場合には、生活習慣改善を継続しつつ翌年の健診を受けることとなる。いずれにしても、最終的には、健診の結果を判定する医師の総合的判断によることになるが、軽症高血圧の場合、メタボリックシンドロームに合致しなくても、心血管危険因子によるリスクの層別化を参考にして、受診勧奨を薦めるか情報提供にするかを判定することになる。

一方、特定保健指導の対象とならないものについても、市町村が実施する健康増進事業において対応することが可能であり、特定保健指導に低リスク軽症高血圧患者が認められるようになるまでは、市町村が行う高血圧に関する個別健康教育等により、必要な指導の実施を薦める。その際、3ヶ月で140/90mmHg未満にならない対象においては、受診を勧奨する。

以上、特定健診・保健指導の実施にあたり、高血圧の対応について、日本高血圧学会よりの提言を行うものである。

(下線:改訂箇所)

平成20年1月17日 作成
平成20年4月21日 一部改訂
日本高血圧学会
理事長 松岡博昭
総務委員長 島本和明

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